追憶の背中


 貴方の背中は、僕のよく知る人に似ています。

 「よく知る」というのは、実は正しくないのかも知れません。
 その人は、僕が物心つくかつかないかのうちに、この世を去ってしまいました。
 だから、その人のことは断片的にしか覚えていない。

 それでも。
 記憶にある、あたたかい温もり。
 全てを包み込む優しさと、甘えを許さない厳しさ。
 兄と争うようにしてしがみついた背中から、感じていた全て。

 それらと似た温かさを、貴方から感じるのは。
 おぼろげなその面影を、今、前を歩く後ろ姿に重ねてしまうのは。
 僕の知らないかの人の記憶を、貴方が持っているからでしょうか。


 遠い記憶の中にしか居ない、僕の父は。
 きっと、貴方のような人だったのだと思います。


『――ゼト将軍』


 貴方は、優しかった父に似ています。
 貴方の背中を見るたびに、とても懐かしい気持ちになる。
 幼い頃に抱いていた、父への憧れと無条件の信頼とを、貴方の後ろ姿が思い出させてくれるから。


 けれど。

 貴方を見るたびに強くなる、灼けつくようなこの感情は。
 憧れよりもさらに激しく、貴方を求めるこの衝動は。

 父に抱いたそれと、果たして同じものなのでしょうか――?



フランツは、いつもゼトの背中を見つめているイメージがあります。
憧れて追いかけるけど、永遠に届かない人、みたいな。



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