手紙
我が親愛なる相棒殿におかれましては、変わらずご壮健であらせられますでしょうか?
……なーんて、な。
こんな書き方したら、きっとまた怒るんだろうな、お前は。
「ふざけるのも大概にしろ」とか言ってさ。
――元気か?
俺は、元気です。
そっちを出て、今の生活を始めてから、もう1年になるんだな。
早いもんだ。
気がつけば、いつの間にかこんなに遠い場所まで来てる。
あちこちを転々とする生活にも、もうすっかり慣れたよ。
女のコに声かけまくってても仕事サボってても、ここじゃ完全無視のやりたい放題。
まあ、思う存分羽伸ばせて結構なことなんだけどさ。
誰かさんの神経質な説教も、聞こえなくなると結構寂しいもんだな。
――会いたいよ。
この手紙が届く頃には、多分今の仕事も一段落してると思う。
報酬も入ることだし、たまにはのんびり里帰りもいいかも知れないな。
……ん? 半年前に帰ってきたばかり? そりゃ言いっこ無しだよ、相棒。
仕事命でろくに息抜きもしない不健康な親友を、長く放っとけるほど薄情じゃないつもりだからね。
まあ、そういうワケだから。多分、近いうちに顔見せに行くよ。
帰った時には、またお決まりの説教を聞かせてよ。
酒でも呑みながら、土産話のひとつも聞いて、散々文句言って。
そうして……少しだけでいいから。
「仕方のない奴だ」って、笑ってくれたら嬉しいな。
お忙しい監督官殿の邪魔しちゃ悪いし、そろそろこの辺でやめとくよ。
それじゃ、元気で。
追伸。
……待ってて、くれるよな?
〜ベルン、国境近くの村にて〜
※
「ちょっと大変っ、大変ですよ!……って、あれ?」
ノックとほぼ同時に駆け込んできたウィルは、誰もいない室内を見渡して首を傾げた。
「いないのかぁ……てっきり、まだ仕事してると思ったんだけど」
余計な装飾の一切無い、必要最低限の調度品だけが並ぶ部屋。
現在の主の性格そのままに整然と片付いた執務机の上で、封の開いた封筒と淡いアイボリーの便箋が、窓から吹き込む西風に微かな音をたてていた。
「どこへ行ったのかな? せっかく……」
癖のある髪を掻き回しつつ、青年が独りごちる。その時、彼の呟きを遮るように、遠くから何やら賑やかに騒ぐ声が響いてきた。
開け放したままの扉を振り返り、ウィルはダークブラウンの双眸を瞬く。
「……知らせるまでもなかった、みたいだな」
どことなく嬉しそうな苦笑を浮かべて、今年19になる青年は再び部屋から駆け出して行った。
「お前は……手紙と同時に帰って来る奴がどこにいる!」
「思ってたより仕事終わるのが早かったんだよ、怒るなって!」
懐かしい客人を迎え、小さな城はにわかに活気づく。
いつになく、賑やかな夜が訪れそうな――そんなある日の午後だった。
たまには遠距離恋愛もいいよね!