手紙


 我が親愛なる相棒殿におかれましては、変わらずご壮健であらせられますでしょうか?

 ……なーんて、な。
 こんな書き方したら、きっとまた怒るんだろうな、お前は。
 「ふざけるのも大概にしろ」とか言ってさ。


 ――元気か?
 俺は、元気です。


 そっちを出て、今の生活を始めてから、もう1年になるんだな。
 早いもんだ。
 気がつけば、いつの間にかこんなに遠い場所まで来てる。
 あちこちを転々とする生活にも、もうすっかり慣れたよ。

 女のコに声かけまくってても仕事サボってても、ここじゃ完全無視のやりたい放題。
 まあ、思う存分羽伸ばせて結構なことなんだけどさ。
 誰かさんの神経質な説教も、聞こえなくなると結構寂しいもんだな。


 ――会いたいよ。


 この手紙が届く頃には、多分今の仕事も一段落してると思う。
 報酬も入ることだし、たまにはのんびり里帰りもいいかも知れないな。

 ……ん? 半年前に帰ってきたばかり? そりゃ言いっこ無しだよ、相棒。
 仕事命でろくに息抜きもしない不健康な親友を、長く放っとけるほど薄情じゃないつもりだからね。

 まあ、そういうワケだから。多分、近いうちに顔見せに行くよ。
 帰った時には、またお決まりの説教を聞かせてよ。
 酒でも呑みながら、土産話のひとつも聞いて、散々文句言って。

 そうして……少しだけでいいから。
 「仕方のない奴だ」って、笑ってくれたら嬉しいな。


 お忙しい監督官殿の邪魔しちゃ悪いし、そろそろこの辺でやめとくよ。
 それじゃ、元気で。


 追伸。

 ……待ってて、くれるよな?


 〜ベルン、国境近くの村にて〜



「ちょっと大変っ、大変ですよ!……って、あれ?」
 ノックとほぼ同時に駆け込んできたウィルは、誰もいない室内を見渡して首を傾げた。
「いないのかぁ……てっきり、まだ仕事してると思ったんだけど」
 余計な装飾の一切無い、必要最低限の調度品だけが並ぶ部屋。
 現在の主の性格そのままに整然と片付いた執務机の上で、封の開いた封筒と淡いアイボリーの便箋が、窓から吹き込む西風に微かな音をたてていた。

「どこへ行ったのかな? せっかく……」
 癖のある髪を掻き回しつつ、青年が独りごちる。その時、彼の呟きを遮るように、遠くから何やら賑やかに騒ぐ声が響いてきた。
 開け放したままの扉を振り返り、ウィルはダークブラウンの双眸を瞬く。

「……知らせるまでもなかった、みたいだな」
 どことなく嬉しそうな苦笑を浮かべて、今年19になる青年は再び部屋から駆け出して行った。


「お前は……手紙と同時に帰って来る奴がどこにいる!」
「思ってたより仕事終わるのが早かったんだよ、怒るなって!」

 懐かしい客人を迎え、小さな城はにわかに活気づく。
 いつになく、賑やかな夜が訪れそうな――そんなある日の午後だった。



たまには遠距離恋愛もいいよね!



PAGE TOP